SCI'23 特別講演
エピジェネティクス-遺伝情報の読み出しシステム-
講師
仲野 徹 氏 (大阪大学名誉教授, 元大阪大学大学院生命機能研究科)
日時
5月18日(木) 15:30〜16:30 テレサホール(西館1階)
概要
ゲノム情報はいわば生命の設計図である。ゲノム解析は、生命科学のみでなく情報科学の進歩により著しく進歩し、その結果得られた「A、C、G、T」という四つの文字による膨大なデジタル情報は、生命科学や医学に革命的ともいえる成果をもたらした。しかし、遺伝物質であるDNAに刻まれているゲノム情報はあくまでも情報にすぎず、生命活動が営まれるには、その情報を読み出すシステムが必要である。そのひとつが「エピジェネティクス」と呼ばれる現象だ。
エピジェネティクスは生命現象を制御する基本原理のひとつであるだけでなく、アサガオの縞模様といった植物の現象から、動物の記憶、学習、さらにはストレス応答や一夫一妻制といった社会行動においても重要な役割を果たすことがわかっている。それだけではなく、がんや生活習慣病、精神疾患といったさまざまな病気の発症にも関与しており、すでにエピジェネティクスを操作する薬剤も開発され臨床で用いられている。
これからの生命科学や医学を理解するためには、エピジェネティクスは必須科目である。すこしとっつきが悪いかもしれないが、わかりやすく解説していきたい。この講演を通じてエピジェネティクスを介した新しい生命像をのぞきみていただければ幸いである。
講師略歴
1957年、大阪市生まれ。1981年、大阪大学医学部医学科卒業。内科医として3年間の勤務の後、大阪大学医学部助手、ヨーロッパ分子生物学研究所ポスドク、京都大学医学部講師(本庶佑研究室)を経て、1995年に大阪大学微生物病研究所・遺伝子動態研究分野教授。2004年に同大学生命機能研究科・病因解析学/医学系研究科・病理学教授に転任し、2022年に定年退職。現在は「隠居」を名乗り、晴耕雨読の生活を営んでいる。趣味はノンフィクション読書、僻地旅行、義太夫語り。主な著書に『エピジェネティクス 新しい生命像をえがく』(岩波新書)、『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社)、『仲野教授の笑う門には福来たる』(ミシマ社)など。